Vol. 01
機械の手で、ひと針ずつ。
── 刺しゅうの服 HANA、5月の手帖から
「機械刺繡」と聞いたときに、無機質な印象を抱く方もまだ多いかもしれません。けれど、業務用ミシン一台と糸200本のあいだで、HANAは毎日小さな物語を縫っています。
2026.05.08
5月の朝、HANAのアトリエは、いつも静かに動き出します。
窓を開けると、もう夏の予兆がする風が入ってきて、夜のあいだに眠っていたミシンが、ゆっくりと目を覚ます。糸の棚にぎっしりと並ぶ200本以上のスプールが、朝日のなかでそれぞれの色を主張する。生成り、薄茶、焦げ茶、灰、白、黒── 似ているようで、ぜんぶちがう。
「今日はどの子から縫おうか。」
そう声に出してから、コーヒーを淹れる。それが、HANAの一日のはじまりです。

一回目の読み物に、何を書こうか迷いました
これまで、商品のページや、Instagram、メールマガジンで、すこしずつ私たちのことをお伝えしてきました。
でも、ブログという「読み物」のかたちで、もうすこしまとまったお話ができないだろうか ── そう思って、こうして文章を書いています。
迷ったのは、最初に何をお伝えするか、でした。ブランドのなりたち? つくり手のこと? それとも、新しく仲間に加わった子たちのこと?
たくさんの選択肢があるなかで、最後に決めたのは、いちばん根っこの話 ── 「私たちは、どうしてこの仕事をしているのか」 ということでした。
「機械刺繡」と聞いたときのこと
HANAの刺繡は、業務用のミシンで縫っています。手刺繡ではありません。このことを、商品のページにも、はっきりと書くようにしています。
なぜなら ── 「機械で縫う」と聞くと、無機質で、冷たくて、量産品のような印象を抱かれる方が、まだ少なくないと感じているからです。たしかに、機械はミスをしません。同じ図案を、何枚でも、同じように縫い上げる。それが機械の長所です。
けれど、本当に機械的に「冷たい」ものを、HANAはつくっていない、と私たちは思っています。
なぜか。それは、機械が動き出すまでの過程に、たくさんの人の手が入っているからです。

たとえば、柴犬の表情をひとつ縫うのに、何が必要だと思われますか?
まず、図案を描きます。何度も、何度も。耳の角度がほんの数ミリ違うだけで、印象がまったく変わってしまうから、納得がいくまでスケッチを重ねます。HANAでは、ひとつの動物の図案を仕上げるまでに、平均して12稿ほどの試作を重ねます。

次に、糸の色を選びます。たった6色。けれど、その6色をどう重ねるかで、毛並みの陰影や、瞳のきらめきが決まる。生成りを多めにするか、焦げ茶を強めにするか。一色の選択ミスで、その子の表情が「べつの子」になってしまうので、慎重に組み合わせていきます。
そして、ステッチの方向や密度を、データとして組み立てる。針が何度の角度で、どの方向に走るか。1mm単位で設計します。ここで仕上がりの8割が決まる、と言ってもいいかもしれません。
すべてが整って、ようやくミシンが動きはじめる。
つまり、機械の前に、長い長い「人の手の時間」があるのです。ミシンは、その時間を、形にしてくれる相棒のような存在 ── 私たちはそう思っています。
一枚ができるまで、約20分
ハンカチ一枚に、ミシンが動く時間は、およそ20分。その20分のあいだに、約6,000針のステッチが、布の上に重なっていきます。

数字にすると、ただの工程かもしれません。けれど、目の前で動き続ける機械の音と、ゆっくりと立ち上がってくる動物の表情を眺めていると、不思議な気持ちになります。
「あ、今、目が出てきた。」
「鼻が、もう少しで完成する。」
平面の白い布のうえに、ひとつのいきものが現れてくる感覚。20分の終わりに、糸を整え、検品して、はじめて一枚が完成します。
私たちはこの20分を、できるだけ大切な時間として過ごしたいと思っています。流れ作業ではなく、一枚ずつ、その子に出会うための時間として。
4つのかたちで、刺繍を届ける
現在、HANAでは大きく分けて4つのアイテムをご用意しています。
ハンカチ ── 手のひらの相棒に
ガーゼコットンの白いハンカチに、動物の表情をあしらった、シリーズの原点です。朝のジャケットのポケット、お気に入りのトート、ふと差し出す手元 ── 毎日のいちばん近くに、自然にいてくれる存在として。
サラッとした触り心地、ふわっと軽い感触のガーゼ素材は、肌にやさしく、薄手で持ち歩きやすい。何度洗っても、色落ちや刺繡のよれが起きないことを確認してから、お届けしています。

── 4種の動物に、それぞれ似合う色をひとつずつ。
ワッペン ── いつものものに、好きをひと足し
「もう何年も着ているデニムジャケット、このまま長く愛用したい。」
「子どもの通園バッグ、もう少しだけ可愛くしてあげたい。」
「お気に入りのトート、ちょっとほつれた箇所を隠したい。」
そんな小さな 「もう少し」 に応えるために生まれたのが、アイロン接着のワッペンです。中温のアイロンで30秒押さえるだけで、お気に入りの布地の片すみに、あの子の顔がしっかりと残ります。

クラフト紙に「hanaembro」とプリントされた専用カードに付けてお届けするので、そのままちょっとしたギフトとしても。

ポーチ ── 糸の粒で描く、品格
サフィアーノ調の白いレザーに、ゴールドのジッパー。表面には、四角い糸の粒が並ぶようなモザイク状のステッチで、動物の表情を刻んでいます。
ハンカチやワッペンの綿やコットンと違って、レザー素材には、糸を細かく積み上げる点描的な刺繡が映える ── 何度かの試作で気づいたことです。

コスメや小物入れとして、あるいは贈りものを包む箱として。日々持ち歩く道具のなかに、ささやかな上質さを添えたい方のための一品です。

mofu. ── もうひとつの世界

そして、つい最近、HANAに新しい仲間が加わりました。
「mofu.」── ふんわりやわらかなパステルカラーのガーゼハンカチに、手描きのゆるい線で描かれた仲間たちが、ちょこんと刺繡されたシリーズです。

これまでのHANAは、写実的でていねいな刺繡を大切にしてきました。けれど、ある日ふと「もっと肩の力を抜いた、もうひとつの世界があってもいいかもしれない」と思ったのが、mofu. が生まれるきっかけでした。

詳しくは、mofu. のページでお話しています。良かったら、覗いてみてください。
いちばん大切にしていること

ここまでお話してきたあと、最後に、いちばん大切にしていることをお伝えしたいと思います。
「これを身につけてくださる方の、毎日が、ほんの少しだけ軽やかになりますように」
たったひとつの願いです。
ハンカチを取り出す瞬間。ジャケットの胸元にちらりと目をやった瞬間。カバンを開けてポーチに手を伸ばした瞬間。
そんな何気ない所作のなかで、ふっと頬がゆるんだり、ちょっと心が軽くなったり ── そのささやかな効果を、糸ひとすじひとすじに込められたら、それで十分だと思っています。
商業的に派手なものを作りたいわけではなく、毎日たくさん使い捨てられる消費物にしたいわけでもなく。長く、たいせつに、使い続けていただける一枚を、ひと針ずつ、毎日少しずつ縫っています。
これから、ゆっくりと
ブログを始めたばかりですので、これからどんなふうに育てていくか、まだ私たち自身も手探りです。おおよそ、月に1〜2回ほどの更新を目指しています。
書きたいことは、たくさんあります。
- 動物たちが図案になるまでのスケッチ過程
- 糸の選び方の、ちょっとマニアックなお話
- mofu. のキャラクターたちの裏話
- 季節ごとの新作のお知らせ
- ありがたくも、お客様からいただいたお手紙のこと
どれも、ゆっくり丁寧にお届けしていきたいので、急がず、でも止まらず。もしお気に入りの記事があれば、SNSでシェアしていただいたり、お友達にお話していただけると、とても嬉しいです。
おわりに
長くなりました。最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
「機械刺繡」と聞いたときに、無機質な印象を持たれる方もまだ多いかもしれません。けれど、その背後には、人の手による設計と、糸を選ぶ時間と、何度もの試作があります。
そして、その積み重ねの先に、誰かの毎日のそばにそっと寄り添う一枚が生まれていく ── それが、HANAというブランドのいちばんの願いです。
これからも、糸の重なりに、小さな物語を。
次回の読み物では、「動物の図案ができるまで」という、もうすこしマニアックなお話をしようと思っています。お楽しみに。
それでは、また。

── 刺しゅうの服 HANA
